シリーズ3回目。ロバートBパーカーの「初秋」の文を読もう。私立探偵のスペンサーと依頼人との会話だ。いかにもハードボイルドなセリフは微妙なジョークを含み、とても英語的な発想の会話だ。
Forward 、sizing up、no-nonsense 等の使い方を文脈の中で考えよう。
クールな会話を楽しんで自分でも使えるように練習するのだ!
Early Autumn by Robert B. Parker 「初秋」
I said, “I have a puckered scar on the back of my, ah, thigh where a man shot me about three years ago.”
「私の、えー、右腿の後ろには縮んだような傷跡があります。3年前に男に撃たれた所です。」と、俺は言った。
“pucker” は口などを、「すぼめる」という意味。ここでは撃たれた傷の穴がすぼまってシワを寄せたように見える昔の傷の形容だ。
She nodded.
女性は頷いた。
“My eyes look maybe a little funny because I used to be a fighter. That’s scar tissue.”
「昔、ボクサーだったので目が少し変に見えるかもしれません。傷跡です。」
“Apparently people hit you in the nose quite often too,” she said.
「明らかに鼻も随分と叩かれたようね。」と女性が言った。
Apparently, と、始める会話はよく聞く。役に立つ文の出だしなので覚えよう!

“Yes,” I said.
「そのとうり。」と俺は答えた。
She looked at me some more. At my arms, at my hands.
彼女はさらに俺を観察した。両腕、そして両手。
Would I seem forward if I offered to drop trou? Probably.
ズボンを脱ぎましょうかと提案するのはいきなりすぎる?だろうな。
この冗談は、”Forward” を理解しないと分からない。「前に進む」と言う意味がこの文脈(男女の関係)では、せっかちに前に進む、進みすぎ、先進的、恥じらいが無い、等のニュアンスになる。また、 “trou” が trousers、(ズボン・パンツ) の省略した語であるのも分かりづらい。
I said, “I got all my teeth though. See.” I bared them.
「でも、歯は全部ありますよ、ほら。」と、俺は言って、歯を剥いてみせた。
“Mr. Spenser,” she said. “Tell me why I should employ you.”
「スペンサーさん、あなたを雇うべき理由を教えて下さい。」彼女は聞いた。
いかにも英語的な言い回しだよね。 why の疑問詞で意味のカタマリを作る例だ。
“Because if you don’t you’ll have wasted all this sizing up,” I said.
「私を雇わなかったら、せっかくのあたなの推量が無駄に終わってしまう、」と俺は言った。
Sizing up サイズを見る、測る、憶測する。つまり相手のガタイをチェックすること。この文脈はまさに体のサイズを推量しているが、比喩的に相手の能力を推定する場合にも使える。
“all this” のニュアンスを読み取ろう。「この全部」、「せっかくやったこれ全て」が無駄になっちゃう。 微妙な皮肉だ。次の文の all this time も同じ事だ。
“You’ll have spent all this time impressing me with your no-nonsense elegance and your perfect control and gone away empty.”
「あなたの問答無用の優雅さと完璧な振る舞いで、私に好印象を与えたのがすっかり無駄になってしまう。」
No-nonsense のソウルは、無意味な小細工なしの、シンプルにそのもの、というニュアンス。「泣く子も黙る」なんて訳も考えてみた。
gone away empty の主語は You’ll have だ。この文の簡単な構造は「時間を使ってしまって、手ぶらで去ってしまう。」となる。
She studied my forehead.
女性は俺の額を凝視したままだ。
“And I look very dashing in a deerstalker and a trench coat. “
「それに私にはシャーロック・ホームズの格好がよく似合う。」
Deerstalker というのは帽子の種類。それにトレンチコート。後はパイプと虫眼鏡で完璧というわけだ。ちなみに、stalker は、そう、ストーカー。つまり鹿ハンターということ。


She looked directly at me and shook her head slightly.
彼女は俺を直視して、わずかに首を振った。
“And I have a gun,” I said. I took it off my hip and showed it to her.
「それに銃も持っています。」と俺は言って、腰から外して見せた。
She turned her head away and looked out my window, where it had gotten dark and shiny with the lights glistening off the rain.
彼女は顔を背け窓の外を見た。外はすっかり暗くなって街明かりが雨に濡れて光っている。
Shake head = 首を振る、turn her head = 顔を背ける。など、同じ動作が英語、日本語で微妙に頭、顔、首と違っていくのが面白い。
I put the gun away and clasped my hand and rested my elbows on the arms of my chair and propped my chin.
俺は銃をしまい、肘を肘掛に乗せ、手を組み、その上に顎を乗せた。
I let the chair tip back on its spring and I sat and waited.
そして、椅子の背のスプリングにもたれかかり、座ったまま待った。
まとめ
ハードボイルドの私立探偵の典型的な、減らず口を叩くジョークが既に爆発してるよね。実に良い。
しかし昔から思う事だけれど、村上春樹ってレイモンド・チャンドラーとか、ロバートBパーカーのハードボイルド小説の会話口調にかなり影響を受けてるよね。まあ、「ハードボイルド・ワンダーランド」なんてタイトルをつけてるぐらいだから、自分でも認めているのだろうけれど。
コメント