私立探偵のスペンサー・シリーズの「初秋」の原文を読み進んでいます。
今回は、特に「時制」に注意して読み進んで行こう。「過去完了」をガッチリ理解するにはいい例だ。
過去完了と過去形が混ざった使われているのは、時制的には2つのレイヤーがあることを考えよう。
1:普通の過去 [過去形]
この物語は過去形で書かれている。物語の筋の時点、つまりスペンサーが張り込みしている時点が普通の過去形だ。
2:ダブル過去 [過去完了形]
スペンサーの張り込み時点よりも前に起こった事、モールに買い物に行った時の事や、その朝ジョギングした事、依頼人の結婚生活の様子などは、すべて過去完了形にして区別してある。
それに注意して読んでみよう。
「初秋」ロバートB. パーカー
A lot of cars went by heading under Route 9 for the Chestnut Hill Mall.
沢山の車がルート9号線の下を通ってチェスナット・ヒル・モールへ向かっていく。
There are two Bloomingdale’s in Chestnut HIll Mall.
チェスナット・ヒル・モールにはブルーミングデールズが2店舗ある。
Bloomingdale’s は高級デパートチェーン店。
Susan and I had come shopping there two weeks before Christmas, but she’d complained of sensory overload and we’d had to leave.
スーザンと俺はクリスマスの二週間前に一度ここにショッピングに来た事がある。しかしスーザンがあまりの賑わいに圧倒され、モールから出ざるを得なかった。

Sensory とは感覚。overload は載積過多。つまり圧倒されるのだ。
また、complain は通常「不平・苦情」などと訳されるが、単に「不具合を伝える」という感じでも使われる。
A jogger went by with a watch cap pulled over his ears and a jacket on that said Tennessee Tech State.
ニットの帽子を耳まで被り、「テネシー・テック・ステート」と書いてあるジャケットをきたジョガーが通り過ぎていった。
Even in the cold his stride had an easy spring to it.
寒いのに、軽やかに跳ねるような足並みだ。
I’d done the same thing along the Charles three hours earlier and the wind off the river had been hard as the Puritan God.
3時間前に、俺も同じようにチャールズ川沿いをに走った。川からの風はまるで清教徒の神様のように厳しかった。
I looked at my watch. Ten forty-five.
腕時計を見た。10時45分。
I turned on the radio again and fished around until I found Tony Cennamo’s jazz show.
俺はラジオを再びつけ、トニー・セナモのジャズ番組が出るまでチャンネルを探した。
Fish around. To fish 「釣りをする」は「探す」という意味でも使われる。Fish around で探し回る。

I fished around the kitchen but I couldn’t find cat food…
He was doing a segment on Sonny Rollins. I listened.
ソニー・ロリンズの特集をやっていたので聴いた。
At eleven the show was over and I shut the radio off again.
11時に番組が終わったので再びラジオを消した。
これ以下の文章が手持ちのペーパーバックは誤植のためか、バラバラになって印刷されている。あなたの持っている本はどう?そんな訳で推測で文章を元に戻してみた。実際の分とは違う可能性はある。その場合は教えてね。
I opened my business like Manila folder, and I looked at my page and a half of notes.
俺は仕事用のマニラ封筒に入っていた1ページ半のメモを見た。
Mel Giacomin was forty. He ran an insurance agency in Reading and until his divorce he had lived on Emmerson Road in Lexington.
メル・ジャコミンの年齢は40。リーディング市で保険代理店を運営している。レキシントン市のエマーソン・ロードの家に離婚までは住んでいた。
His wife lived there still with their fifteen-year-old son, Paul.
奥さんの方は今だにその住所に息子のポールと共に住んでいた。
As far as his wife knew, the agency did well.
奥さんが知る限りでは保険のビジネスは好調らしい。
He also ran a real estate business out of the same office and owned several apartment houses, mostly in Boston.
夫は同じオフィスで不動産のビジネスもやっていて、複数のアパートを主にボストンに所有している。
The marriage had been troubled from the start, in dissolution for the last five years, and husband and wife had separated a year and a half ago.
結婚生活は初めから問題があり、最後の5年間は崩壊状態、そして1年半前に離婚が成立していた。

He’d moved out.
夫は家を出ていった。
She never knew where.
どこへ越して行ったのか、奥さんの方は知らない。
The divorce proceedings had been bitter, and the decree had become final only three months ago.
離婚協定は激しく対立して、判決はやっと3ヶ月前に出たばかりだ。
まとめ
過去完了の実際の使いかたが分かっただろうか?特に難しい事はないのだが以外に混乱しがちな時制、これを機会にガッチリと理解しよう。
Fish around = 探し回る の表現も復習しよう。
物語は大体において過去形で書かれる。そして三人称で書かれる事が多いのだが、”I” と一人称を使うのはハードボイルド系の小説での定番だ。レイモンド・チャンドラーのように。
日本では「私小説」などという赤裸々な分野が一時期流行って、「私」はそれ系で良く使われた。
話は村上春樹に戻るが、「私」を彼の最初の小説、「風の歌を聴け」で使ったスタイルは、やはりハードボイルドを思い起こさせるのだ。
今回の翻訳ではあえて「俺」を使ってみた。
コメント