小説を徹底解説で読んでいくシリーズ。文化的背景、言葉の選び方のニュアンスや、人物に与える印象の違いなど細かく原文を検証していきます。
役にたつフレーズや、分かり難い表現・冗談など、話の流れで読んでいくと実際に使える英語力がついていくのだ!
今回は、For all I know や、no shit! などの口語表現や、敵意がある場合の “What do you want?” などのニュアンスを覚えよう!

小説の始まりはこちら
「初秋」ロバート B. パーカー
I walked down. The house she was parked in front of was a two-family, up and down.
俺は歩いて家まで行った。女が正面に車を停めた家は、上下に別れた2世帯住宅だ。
The front hall door was unlocked and inside were two other doors.
玄関ホールのドアには鍵はかかっていない。中には更に二つのドアがあった。
The one on the right obviously led to the downstairs apartment.
右が明らかに一階の住居に入るドアだ。
The one directly ahead to the upstairs.
正面に見えるドアは2階への入り口だ。
I put my ear against the downstairs door.
俺は一階の住居のドアに耳を当てて聴いてみた。
I could hear a TV set and the sound of a baby crying.
テレビの音と乳児の鳴き声が聞こえた。
That wouldn’t be Giacomin.
明らかにジャコミンではない。
For all I know she was here to play Parcheesi with an elderly friend.
お年寄りの友人とパーチージーのゲームをやりに訪問している可能性だって十分にある。
For all I know は慣用表現で、「私が知る限り」。ニュアンス的には、私の知っている事は限られているので、何も断定できない = 何でも起こり得る。となる。
Parcheesi はこれね。ウィキペディア参照
I tried the knob of the upstairs door.
俺は二階の住居のドアノブを試して見た。
It turned but the door didn’t open.
ノブは回ったがドアは開かない。
Above it was a round key slide of a spring bolt.
ノブの上には、ばね仕掛けのボルトの丸型の鍵の差し込みがある。
They were easy, if the jamb wasn’t too tight.
ドアと枠の隙間があれば開けるのは簡単だ。
I took a thin shim from my coat pocket and tried it.
俺は上着から薄いプラスティックの板を取り出し、試して見た。
Shim は薄い、楔形のもので、例えばグラグラしている机の脚の下にカマせて補正したり、水平に調節する物を指す。
ここでは鍵開けのための特殊なプラスティックの薄い板
ドアには隙間があった。
I popped the bolt back and open the door.
俺はドアのボルトをカチリと動かし、ドアを開けた。
The stairs rose straight up ahead of me to a landing and then they turned right.
階段が目の前からまっすぐ踊り場まで上がり、右に折れていく。
I went up them. At the top was another door.
俺は階段を登っていった。階段の上にはもう一つドアがある。
I put my ear against it.
俺はドアに耳を当てて見た。
I could hear a radio and the low sound of conversation.
ラジオの音と、かすかな会話の声が聞こえた。
I put my hand on the knob and turned it quietly.
俺はノブに手をかけ、静かに回して見た。
The door was not locked.
ドアはロックさてれてはいない。
I opened it silently and stepped into a kind of foyer.
俺は静かにドアを開けると、玄関口のような場所に踏み入れた。
カタカナで「ホワイエ」と呼ばれるものと同じ。「ホワイエ」はフランス語だが、英語では「フォイヤー」と発音される。ロビーやホールと似ている場所。
Ahead was a dinning room. To my right a living room through an archway.
正面にはダイニング、右の方にはアーチ型の入り口を通ってリビングがあった。
省略部分を補うと
Ahead (there was) a dinning room. To my right, there was a living room…
In the living room, Elaine Brooks sat in a red plush armchair leaning forward, talking with a big man with a long nose and small eyes and a drooping mustache.
リビングルームでは赤い高価そうな肘掛椅子にイレイン・ブルックスが前のめりに座って、長い鼻に小さな目、そして垂れた口髭の大きな男と話していた。
Plush とは、ビロード (ベルベット・コール天) よりも毛が長い生地で、プラシ天と呼ばれる生地だが、口語では「豪華な、高価そうな」という意味で使われことが多い。
ちなみに「ぬいぐるみ」と意味する場合もあるようだが、stuffed animal は普通に聞くけれど、Plush は会話では聞いたことがない。

Elementary, my dear Watson, elementary.
初歩だよ、初歩、ワトソン君。
探している男を発見することに成功して、独り言のようにつぶやいているのは「シャーロック・ホームズ」のセリフのジョークだ。
これに似たジョークは;
No shit, Sherlock?! ええ、まじか、シャーロック?!
と、誰でも分かる当たり前の事を言った人に向けて皮肉を込めて言う。
このスラング、“No, shit!” マジか!
と言うのは頻繁に出てくる表現なので覚えておく必要がある。

She didn’t see me, her back was toward me. But he did.
女は俺に背を向けていたために俺を見なかった。しかし男は俺を見た。
He was standing with a drink in his hand while she talked to him, and when I opened the door we looked right at each other.
男は酒を手にして、立った状態で、女の話を聞いていた。俺がドアを開けたらばったり対面してしまったのだ。
ここの right は、「ばったり」というニュアンスだ。
I had never figured the drill on a situation like this, did I say “Ah, huh” vigorously or just stare accusingly.
こんな状況で、パッと言えるセリフを俺は持っていなかった。「見つけたぜ」と威勢良く言えばいいのか、それとも非難の目でじっと見ればいいのか。
Drill とはカタカナ語の「ドリル」でおなじみのように、何回も繰り返し練習して、考えなくても素早く対応できる手順だ。
He was quicker than I. He knew just the right thing to say.
男は俺より機転が効いているようで、言うべきセリフをバシリと言う。
He said, “What the hell do you want?”
「何してやがるんだ、お前?」
直訳すると、「あなたは一体全体何が欲しいんだ?」となるが、一般的に、敵意がある場合に、
What do you want?
と言うのは、「何んなんだよ」、「何ジロジロ見てるんだ」、「何してるんだよ」、というニュアンスだ。
the hell は強調だ。往往にして fuck と互換性がある。
“Perfect,” I said, “The very phrase.”
「そのセリフだよ、完璧だな」と俺は言った。
The very はまさにそれ以外にはあり得ない、「それだよ」の感じ。
まとめ
しかし、いきなり不法侵入というか、人が居るのに押し入ってしまうのがすごい。しかも初対面の人間に、そんな状況で減らず口ジョークを飛ばすスペンサーの神経は、僕から見ると信じられない。それが面白いところなのだ。
これ、前からよく思うのだけれど、コンマを入れたくなる部分が沢山あると思うのはあなただけではありません。編集者も直していないので、パーカー氏のスタイルなのだろうか?
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