今回はペースが上がる「pick up」、皮肉で言う「a big treat」、これ見よがしに着る「sporting」の用法などを、ポピュラー小説の文脈の中で説明しよう。
依頼人の息子を発見して、母親の元に連れ戻すという場面。前回からの続きです。
「初秋」ロバート B. パーカー
Emerson Road was not far off the highway, a community of similar home with a lot of wood and glass and some stone and brick. It was contemporary, but it worked okay in Lexington.
エマーソン・ロードはハイウェイからそんなに遠くは離れていない。木材やガラス、ある程度の石材、そしてレンガを使った、似たような家が並んだ住宅地だった。近代的なスタイルだったが、レキシントンでは悪くは見えない。
Stone や brick など、家を建築する材料を指しているので、複数形になっていない。
I parked in the driveway out front and we got out.
俺は家の前のドライブウェイに車を駐め、車から降りた。
It was late afternoon and the wind had picked up. We leaned into it as we walked to his back door.
午後遅くで、風が強くなってきていた。裏口まで、風に向かって寄りかかるように歩いた。
Pick up は「拾う」に加えて「ペースが上がる」という意味がある。
He opened it and went in without knocking and without any announcement.
少年はノックもせず、何も言わずに裏口を開けると家に入った。
Chapter 5
I rang the doorbell a long blast and followed him in. It was a downstairs hall.
俺はドアベルを長く鳴らすと、少年の後をついて家に入った。入ったところは階下のホールだった。
There were two white hollow core doors on the left and a short stairway to the right.
左手には白い、中が空洞のドアがあり、右手には短い階段が見える。
On the wall before the stairway was a big Mondrian print in a chrome frame.
階段の前の壁にはクロームの額に入った、大きなモンドリアンの絵のプリントがかかっている。
モンドリアンはオランダの抽象画家。黒、白、赤、青、黄色の原色で四角と線を組み合わせた絵が有名だ。

これは全くの余談ですが…。
「クローム・chrome」 という言葉を聞くと今でも思い出すエピソード。
日本のオートバイのパーツ店で、僕の友人は「Chrome」と書いてあるのを見て、不安げに、「チロ、、、メ?」、と語尾を少し上げて聞いた。誰にでもある恥ずかしい失敗談であるが、奴の顔があまりにもおかしく、今だにその友人と会うとそのネタでいじめるのだ。
Four steps up was the living room. As I went up the stairs behind the kid his mother came to the head of the stairs.
階段を四段上がったところはリビングだ。少年の後ろについて階段を上がりかけると、少年の母親が階段の上に現れた。
The kid said, “Here is a big treat, I’m home.”
「待ちかねてたでしょう?家に帰ってきたよ!」と少年は言った。
a big treat は文字どうり訳すと、「お菓子、甘いもの、特別な良いこと」の Treat、しかも big なトリート、だ。つまり母親にとっては息子が帰ってきたのは、treat と呼ぶべき、喜ばしい事だ、と皮肉で言っているわけだ。ここでは「お待ちかねの」と意訳した。
Patty Giacomin said, “Oh, Paul, I didn’t expect you so soon.”
「あら、ポール。こんなに早く帰ってくるとは思わなかったわ」、とパティ・ジャコミンが言った。
She was wearing a pink silk outfit—tapered pants with a loose-fitting top. The top hung outside the pants and was gathered at the waist by a gold belt.
母親はピンクのシルクの上下を着ていた。裾がすぼまったパンツに、ゆるい感じのトップだ。トップの裾はパンツの上に垂れて腰の所でゴールドのベルトで締めてある。
I was standing two steps down behind Paul on the stairs.
俺はポールの後ろ、階段を二段下がった所に居た。
There was a moment of silence. Then Patty Giacomin said, “Well, come up, Mr. Spenser. Have a drink. Paul, let Mr. Spenser get by.”
沈黙の一瞬があった。そして、パティ・ジャコミンは「じゃ、上がってきてください、スペンサーさん。お飲み物でもいかかが?ポール、スペンサーさんをお通しして」、と言った。
I stepped into the living room. There were two glasses and a pitcher that looked like martini on the low glass coffee table in front of the couch.
俺はリビングルームに上がった。カウチの前の低いガラスのコーヒーテーブルにマティーニらしいピッチャーとグラスが二つある。
There was a fire in the fireplace. There was Boursin cheese on a small tray and a plate of crackers that looked like little shredded-wheat biscuits.
暖炉には火が焚かれ、トレーの上にはブルサンチーズ、皿にはシュレデットホウィートのビスケットようなクラッカーがあった。
And on his feet, politely, in front of the couch was the very embodiment of contemporary elegance.
そして、カウチの前には、近代的な優雅さの代表のような男が礼儀正しく立っていた。
Embodiment; Emー、とは「成る」を意味する接頭語だ。つまり、ボディーになる = 体現化する = 具現化するという意味になる。つまり物事のエッセンスを人間にしたら、こうなる、と言う感じだ。
He was probably my height and slim as a weasel. He wore a subdued gray Herringbone coat and a vest with charcoal pants, a narrow pink tie, a pin collar, and black Gucci loafers.
男はおそらく俺と同じ背の高さで、イタチのような痩せ型だ。控えめのグレーのヘリンボーン柄のコートにベスト、チャーコールのパンツにピンクの細いネクタイ、ピン留めのシャツ、そして黒いグッチのローファー、といういでたちだった。
A pink-and-charcoal hankie spilled out of his breast pocket of his jacket. HIs hair was cut short and off the ears and he had a close-cropped beard and a mustache.
ピンクとチャーコール柄のハンカチを胸ポケットから覗かせている。髪は短く耳の上までカットされ、口ひげとあごひげも短く揃えていた。
Weather to see or to be seen, I had no way to tell, but he was also sporting a pair of pink-tinted aviator glasses with very thin black rims. The pink tie was shiny.
度が入っているのか、伊達なのか、知るすべは無いが、細い黒のフレームのピンクがかったエイヴィエーター型のメガネをしている。ピンクのネクタイは光沢があるものだった。

おいおい、すごいファッションだよね。「サタデーナイトフィーバー」のジョン・トラボルタって感じなのか?ちなみにエイヴィエーター = パイロットがするような、僕がかけているメガネの形だ。
「スポーツ」を他動詞として、「これ見よがしに、目立つように、着る・つける」と意味する用法を知ろう。通常は sporting とingの形で使うことが多い。
to see or to be seen とは、「見るためなのか、見られるためなのか」=「機能のためななのか、ファッションなのか」、ということなので、度入りなのか、伊達メガネなのか、と意訳した。
Patty Jacomin said, “Paul, you know Stephen. Stephen, this is Mr. Spenser. Stephen Court.”
「ポール、あなたはスティーブンさんを知ってるわね。スティーブン、これはスペンサーさん。こちらはスティーブン・コート」、とパティ・ジャコミン が紹介した。
Stephen put out his hand. It was manicured and tanned.
スティーブンは手を差し出した。マニキュアが施され、日焼けしていた。
St. Thomas, no doubt.
セント・トーマスで日焼けしたに違いない。

US ヴァージン・アイランドのメインの島。きっとこのタイプの男はファッショナブルなヴァケーションスポットに行くだろうと勝手に決めつけているわけだ。
His hand shake was firm without being strong. “Good to see you,” he said.
男の握手は強くはないが、しっかりとしたものだった。「初めまして」と男が言った。
He said nothing to Paul and Paul didn’t even looked at him.
男はポールには何も言わなかった。ポールも男を見もしない。
Patty said, “Would you like to join us for a drink, Mr. Spenser?
「私たちと一杯ご一緒しませんか?」、とパティが言った。
まとめ
人物の描写や、人を紹介する場面の言い回しは自分でも後で使えるように消化しておこう。
今回は4章と5章をまたいで、新しいシーン、新しいキャラクターの登場だ。話がどう展開していくのか次回が楽しみだ。
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